自転車ランプ



Pentax *istD + Flektogon 35mm/f2.4

最近、19世紀の建築を調べていることが多いのですが、その関係で(といっても実はたいした関係はありませんが)、街灯やランプに強く心惹かれています。ガス灯の登場、石油ランプの普及、そして電気の発明。それ以前のロウソクや油ランプの長い歴史に比べると、19世紀のランプの移り変わりはさながら炎の煌めきと同じ束の間の命しか持っていなかったかのようで、ガラスの奥の輝きのイメージだけを残してあっという間に消え去ってしまったようです。その短い命、歴史の中にひとときだけ現れた美しい光は、クリスマスのライトアップと同じで、束の間のものだからこそ、なんだか妙に心に訴えかけてきて、気持ちが不思議に高ぶってくるのかもしれません。クリスマスが近くなって街のライトアップの中を歩き抜けるときの高揚感とは裏腹に、いざクリスマスになると特別なにが起こるわけでもなく普通に時間が過ぎていくのと同じように、実際に19世紀のランプの光の下で、なにか特別な世界が広がっていたわけではないと思いますが、体験したことのない世界だからこそ強い憧れを感じるのでしょう。


Pentax *istD + Flektogon 35mm/f2.4

というわけで(どういうわけ?)、ガラクタ同然に売られていた古い携帯用ランプをみつけて衝動買いしてしまいました。綺麗に磨いてホコリを落として機能を調べてみましたが、ランプの芯はボロボロでになっているため、これを交換しない限りは石油ランプとして使うのは難しそうです。中央に大きなレンズの嵌め込まれた窓があり、両サイドには赤と緑のガラスが嵌め込まれています。




「辻馬車用のランプ」という名で売られていたのですが、製造メーカーの名前などが刻印されていたためインターネットで調べてみたところ、どうやらこれは19世紀末から20世紀初頭にかけて作られた自転車用のランプのようです。石油ランプを取り付けて自転車を走らせるというのは現代からはとても想像できませんが、確かに自転車が発明されていれば、暗い夜道を走らせることもあったのでしょう。ちなみにこれはイギリス製でバーミンガムのPowell & Hanmer社による製造。P&Hの刻印もアール・ヌーヴォー的で、時代を感じさせます。

イニシャルの刻印で思い出しましたが、横浜で発掘された日本最古のガス管に残されたイニシャルの刻印から、僕の友人がその身元調査をしたルポがこちら に掲載されています。その記事によれば、明治5年にはじめて日本で灯されたガス灯もやはりイギリス製だったようです。パリもちょっと関係しているらしいですが・・・


Pentax *istD + Flektogon 35mm/f2.4

さてさて、僕が手に入れた自転車用ランプ、石油ランプとして復活させるにはかなりの手入れが必要なようなので、とりあえず小さいロウソクを入れて緑と赤の光を楽しんでみました。せっかくなので僕のロウソク・コレクションを並べて、一足早いクリスマス・ライトアップの気分で記念撮影。
ガラクタ同然になっていたとはいえ、こういうものが残っているのがヨーロッパの奥深さですね。日本に石油ランプが入ってきたのは江戸末期から明治初めらしいのですが、関東大震災(1923年)の直前に寺田寅彦が「石油ランプ」と題する文章を書いていて、何所を探してももう石油ランプを売っていないと嘆いています。このエッセイは、もし大地震でも起こって電気やガスの供給がストップしたら石油ランプでも持っていないと不便だろうと、震災の予言になっていて興味深いのですが、日本ではわずか数十年で石油ランプは姿を消してしまったのかと、そのスピードの速さにも驚いてしまうわけです。

Posted: 木 - 10月 20, 2005 at 06:56 午前          


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