ケルン大聖堂が世界遺産除名の危機



Pentax *istD + DA16-45mm

今朝の新聞に、ケルン大聖堂の世界遺産からの登録抹消が世界遺産委員会にて論議されようとしている、という記事が出ていました。記事によると、ライン川を挟んで大聖堂と向かい合う高さ100mを超える高層ビル4棟の計画が、景観的価値を損なうと判断されたため、とのこと。上の写真には写っていませんが、橋の右手が再開発計画地になっています。


Pentax *istD + DA16-45mm

計画されている4棟の高層ビルのうち1棟は、今年4月に完成したとのことですが、写真は昨年8月に撮影した建設途中のビル。


Pentax *istD + DA16-45mm

このことは、昨年ケルンを訪れた後に「アーヘン・ケルン・フォトギャラリー 」の中でも書いたのですが、鉄道でケルンに到着してもっとも驚いたのは、ケルンの中心駅と大聖堂とが隣接していることでした。写真では駅構内からガラス越しに大聖堂が見えています。フランスでは一般に大聖堂を中心とする旧市街(歴史的地区)と駅を中心とする新市街とは明確にゾーンが分けられているため、駅と大聖堂が隣接している例というのは見たことがありません。そのため、新市街の開発が進んでも旧市街の歴史的街並みは保存されるわけです。


Pentax *istD + DA16-45mm

13世紀に建設の始められたケルン大聖堂は1560年に工事が中断し、その後300年の時を経て1842年に工事が再開、1880年に完成したもの。おそらく鉄道の駅とライン川をまたぐ鉄橋(どちらも当時のものは現存せず)は、大聖堂と同じ時期に建設されたものだと思われます。ガラスと鉄骨が多用された鉄道駅は19世紀の産物であり、「19世紀の大聖堂」ともいわれますが、大聖堂と鉄道が隣接するこの配置はもしかするとケルン特有の現象だったのかもしれません。つまりどちらも19世紀におけるケルンの中心でありシンボルであったと考えられます。


Pentax *istD + DA16-45mm

その結果、ケルンの街は旧市街と新市街というゾーニングが行われることなく、大聖堂と鉄道駅を中心に歴史的街並みの中に近代的な建築が次々に建設されていくという虫食い的な発展を遂げていったのかもしれません。そのため僕個人としては、今回問題になっているライン川の反対河岸の再開発計画(写真)よりも、大聖堂のある左岸の街並みの方により大きな問題があるように感じられました。もっとも、ケルン大聖堂が世界遺産に登録された1996年には、左岸の歴史的街並みはとっくに危機的状況にあったわけですが。それに比べれば、反対河岸の右岸の開発による影響は少ないようにも思われます。


Pentax *istD + DA16-45mm

とはいえ、今回の再開発計画が4塔の高層ビル建設であるという点は、やはり大きな問題といわざるを得ないでしょう。今日の1枚目の写真を見ていただいてもわかるように、ヨーロッパの歴史的都市において、そのスカイラインを決定づけるのはゴシック教会堂を中心とする歴史的建造物です。また、この写真はパリのオペラ座を撮ったものですが、高さ制限のかけられたパリの街並みの中で飛び抜けて大きいのはオペラ座のような歴史的な建築ということになるわけです。オペラ座の隣に高層ビルが建ってしまっては、間違いなくパリの景観は崩壊してしまうでしょう。


Pentax *istD + DA16-45mm

同じく写真はパリの街並みを屋根の上から眺めたものですが、左手の大屋根はマドレーヌ寺院、中央は言わずとしれたエッフェル塔、その足下にあるのが1900年のパリ万博会場となったグラン・パレで、こうしたモニュメントがパリのスカイラインを決定づけているのがよくわかると思います。実は、写真左奥にはパリ15区のセーヌ川沿いで1970年代に建設された高層ビル群が小さく見えています。これはル・コルビュジエの「300万人の現代都市」的な都市計画に基づいたプロジェクトでしたが、結局こうした都市計画がパリの中心部を変貌させなかったのは、世界中の人々にとって幸運だったと言わざるをえません。ケルン市当局にも、今回の通告を重く受け止めて理性的な対応をして欲しいと望みます。

Posted: 金 - 7月 7, 2006 at 01:19 午後          


©