ラン(Laon)の魅力





連休の日曜日、ラン大聖堂の見学に行ってきました。ラン大聖堂は、僕にとっては特別な思い入れのある建築です。博士論文を執筆する前、僕はランの旧市街のホテルに1週間ほど宿泊し、毎日この大聖堂に通い詰めて論文のテーマを見いだしました。僕にとってはいわば研究者の原点となった場所なのです。
写真は、ランの駅から丘の上の大聖堂を望んだところ。



小高い丘の上に広がるランの旧市街を見下ろすラン大聖堂は12世紀後半から13世紀初頭にかけて建設された初期ゴシック建築の代表作の一つ。パリのノートル=ダムとほぼ同時期の建築です。ほとんど崖といってもいいような急斜面と城壁に囲まれた旧市街は「台地(plateau)」と呼ばれる特徴的な地形を生かした中世の町で「王冠をいただく山(montagne couronnée)」とか「平野に浮かぶ島(une île dans la plaine)」「フランスのアクロポリス(une Acropole française)」などと詩的な表現で語られます。




鉄道の駅がある新市街「下町」から山頂の旧市街までは«POMA»というモノレールのような交通システムが走っています。──が、日曜日はお休み。気が遠くなるほど長い石段と坂道を上って山頂まで歩きました。標高差は約180mだそうです。




途中、崖に咲く花を愛でながら、久々に対面する大聖堂の美しい姿を想像して、一路、山頂を目指します。




ようやく山頂までたどり着くと、古い石造りの建物が密集していて、下からはあんなによく見えていた大聖堂の姿が隠れてしまいます。




近道をして、変なところから旧市街に入ったため、旧市街のはずれの商店街は、日曜日ということもあって、静まりかえっていました。




旧市街の石畳の路地を歩いていると、突如として、路地の隙間から大聖堂が姿を現します。




1年前 には修復中だった向かって右側の塔は白く美しくなった姿を見せてくれましたが、残念ながら今度は左側の塔が足場に覆われていました。しかし、この日の僕のお目当ては、修復されて生まれ変わった右側の塔。観光案内所のガイド付きツアーでこの塔に上れるというので、インターネット経由で予約しておいたのでした。ランには何度も訪れていますが、塔に上るのはこれが初めてです。




その前に、まずは大聖堂内を見学。何度訪れても、僕にとっての原点とも言うべきこの建築の内部に入ると、研究に対する思いが強くなるように感じます。




こちらは、初めて登ったラン大聖堂の塔の上から見た風景。写真、右奥はランの「台地」の遙か下に広がるピカルディー地方の平原です。細長く広がるランの旧市街は、こうして見るとかなりの密度で建て込んでいることがよくわかります。そして、写真、左奥に2本突き出ているのが見える塔が、この日2つめの目的地。




それがこちらの旧サン=マルタン大修道院。開放されていることが少ないため、これまで一度も中に入ることのできなかった教会堂です。この日は、ついに内部の見学ができました。大聖堂の建設にわずかに遅れて建設されたこの教会堂も、初期ゴシックの美しい建築でした。




旧サン=マルタン大修道院の近くから、彼方に大聖堂を望む。いくつもの塔が林立するラン大聖堂のデザインは、その後のゴシック大聖堂のデザインに強く影響を与えたと言われます。見る方向によって、様々な表情を見せてくれるラン大聖堂。中世の旅人は、どんなに遠くからでもこの塔を目標にランを目指すことができたことでしょう。

Posted: 月 - 5月 8, 2006 at 12:49 午前          


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