建築〜修復〜骨董〜装飾(続)



Pentax *istD + DA16-45mm

6月7日の同名のエントリーの続編です。と言いつつ、晴天に恵まれた今日は、パリから国鉄で30分ほど北に行ったドモン(Domont)という町の教会堂の見学に行ってきたので、1枚目はその写真。


Pentax *istD + Macro Takumar 50mm/f4

さて、話をヴィオレ=ル=デュクに戻します。
「ところが今日、ヴィオレ=ル=デュクの『中世建築事典』を読んでいると、」"cul-de-lampe"という項目が出てきました。写真は『中世建築事典』(正式には、E.E.Viollet-le-Duc, Dictionnaire raisonné de l'architecture française du XIe au XVIe siècle.)より第4巻487ページの図版。左側の図Aは、壁の前面に立つ柱などを支える、いわゆる〈持ち送り〉(corbeau)ですが、右側の図Bは、機能は持ち送りと同じであるもののその形状から"cul-de-lampe"(ランプのお尻)と呼ばれます。




今日、ドモンの教会堂で撮った"cul-de-lampe"と、実際の〈ランプのお尻〉を並べてみました。なるほど、わからないでもありません。ヴィオレ=ル=デュクによれば、写真左の建築部材を"cul-de-lampe"と呼ぶことは200〜300年前から続いているものの、そのネーミングに正統な根拠はないとのこと。吊り下げランプの底の形状からアイディアを得て、まず吊り下げ型キー・ストーン(6/7のエントリー、最後の写真参照)が"cul-de-lampe"と呼ばれるようになり、さらにそれが写真のようなタイプの持送りの名称としても使われるようになったのだろうと、説明されています。ヴィオレ=ル=デュクのアプローチは語源学的なもので、「ランプの底」→「リブ・ヴォールトのキー・ストーン」→「先細りになった持ち送り」という順序で説明されているわけですが、では果たして、デザインの源泉としての順序はどのようなものだったのだろう、という疑問が残ります。「リブ・ヴォールトのキー・ストーン」が吊り下げ型になってランプの底に似た形状を示すのは15〜16世紀のことですが、「先細りになった持ち送り(cul-de-lampe)」は、ドモンの教会堂の例が示すように12世紀には既に登場しています。したがって僕自身の感触としては、実際のデザインの順序は語源学的な順序とはまったく逆の「持ち送り」→「キー・ストーン」→「ランプ」となるような気がするのですが、今のところはっきりしたことはわかりません。

「次回に続く」などと気を持たせるようなことをしたのにもかかわらず、結論不在でごめんなさい。


Pentax *istD + DA16-45mm

というわけで、ここからはサービスカット。まったくの偶然なのですが、今日見学してきたドモンのサント=マリー=マドレーヌ教会堂には、たくさんのcul-de-lampeが使われていました。例えばこの写真の天井でクロスしているリブ・ヴォールトを支えているのは人面をかたどったcul-de-lampeです。




人面cul-de-lampeのクローズ・アップ。かなりコミカルな表情が彫刻されています。


Pentax *istD + DA16-45mm

こちらは内陣で見られた、天使像をかたどったcul-de-lampe。実は、cul-de-lampeが使われているということは、僕の研究テーマであるシャフトが使われていないということになるため、普段だったらがっかりして帰ってくるところなのですが、今日は普段あまりじっくり見ることのないcul-de-lampeをゆっくり観察してきて、なかなか勉強になりました。

Posted: 木 - 6月 9, 2005 at 07:19 午前          


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